県内の米づくりを支える
縁の下の力持ち「種もみ農家」

 10月上旬、黄金色の稲穂が揺れる松浦市の田んぼにお邪魔しました。実はここで収穫する米はちょっと特別。今年食べる新米ではなく、来春栽培する水稲の種子となる「種もみ」なのです。県内の米作り、ひいては私たちの食卓を支える縁の下の力持ち、「種もみ農家」の末永徳平さんにお話を伺いました。

種もみ農家は父の代から
 先祖代々の農家に生まれ、若い頃は会社員として働きながら父の米作りを手伝い、47歳で専業農家になったという末永さん。父の時代から、種もみ農家として高品質の種もみを栽培しています。

海を望む豊かな土地で

 松浦市調川町松山田地区にある田んぼは、美しい町を見下ろす絶景スポット。

標高約150mの山間地に位置するため昼夜の寒暖差が大きく、粘土質の肥沃な土壌と豊かな水にも恵まれた、米作りに最適な土地です。この地域では6軒の種もみ農家が「なつほのか」「恋初めし」の種もみを栽培しています。

厳しい基準をクリアして
 種もみの栽培は来年の収穫、食料の確保につながる責任ある仕事。種もみ農家をはじめ、県や米麦改良協会、JAなどが毎年力を合わせて取り組んでいます。

 栽培中は品種ごとに年2回、各機関が現地を訪れ生育具合や管理状態を確認する「圃場検査」が実施されるほか、収穫後にはシビアな検査が待ち受けています。

20kg1袋ごとに取ったサンプルは色つや、粒ぞろい、比重など厳しい基準に沿って検査され、合格したものだけが来年産の種子として県内の米農家に販売されます。

米と種もみ、栽培の違い
 栽培方法は同じですが、来年の米の種子となるものなので、通常食べる米に比べて「量より質」の考えで管理をします。例えば通常1株の苗を植えると、約25本の茎に分かれて穂となりますが、そのままだと栄養が少なく小粒の米に育ちます。そのため早めに田んぼの水を抜いて茎を20本以下に抑え、1本1本に養分を行き渡らせます。「だから食べてもすごくおいしいお米に仕上がっているんですよ」と末永さん。

 さらに、あえて土を乾かして根にたっぷり酸素を与えることで、台風でも倒れにくい丈夫な稲を作ることが種もみ栽培では大事なこと。丁寧に草を取って農家の大敵、イノシシや害虫の対策をうまく行えるかも重要です。

農家同士の協力
 高品質の種もみ供給には農家同士の協力が欠かせません。松浦地区では種子もみ部会を結成し、常に互いの栽培状況を共有・相談し合うほか、知識・技術向上のため専門的な研修に臨んだりと、地域全体で切磋琢磨しています。

今年もいい出来です
 「責任ある仕事を任されているという緊張感は常にありますが、その分やりがいを感じています。今年は害虫被害や水不足の心配、台風の影響もなくいい出来でした。また来年も質の高い種もみができるよう研さんを積み、県内のよりよいお米作りに貢献していきたいです」と末永さんは話します。

Jasmile Vol.14(2023 Winter)掲載